2014年11月27日木曜日

Nabi Hackathon : PAN Innovation for Good

Nabi Hackathon : PAN Innovation for Goodへの参加の記録


日がな一日研究に明け暮れている私は常々、どうにかして数日でもよいから研究室から抜け出し、青々とした空のもと青春を謳歌することはできまいか。あわよくば南の島などで過ぎ去った青春の甘い汁をちうちうと吸うことなど叶うまいか、などと不真面目なことを考えていた。そんな折に、私は先生からこの話をいただいた。11月後半のこの期間、制作に余裕があるなら韓国に行ってくれないか、というお話に、私は後先顧みず飛びついた訳である。

今回のハッカソンの会場は韓国のチェジュ島にあるICC Jeju、日本の初台にあるICC(InterCommunication Center)と同じ略称であるがInternational Convention Centerの略称であるとのことである。

相変わらず金のない私は2万円を16万ウォンばかりに両替し、鞄にたくさんの電子部品をぎゅうぎゅうに詰め込んで日本を発った、さようなら日本の人々、あわよくば今の二倍も三倍も大きな人間になって、私はこの地を再び踏むだろう、大体四日後くらいに。

事前に同じ研究室の韓国人の友人に聞いていたのであるが、チェジュ島と言う島は日本で言う所の沖縄のような島であるようでみかんのうっそうと茂る南のパラダイスであると言う。

かくして留学などでふらふらとヨーロッパやアメリカには行ったことはあるものの実は日本以外のアジアの国には行ったことのない私は大きな期待とともに韓国を訪問したのである。
韓国と言うのは日本にとても似ているが似ているようで様々な違いのある面白い国である、というのは私の先生の言であるが、韓国の空港に降り立ってはじめに感じたのは、日本と似ている情景、しかし異なる文字、異なる言語、という、不思議な空間であった。

ICC Jejuではまず初日にスーツケースエキシビジョン、ということで、現在の作品や研究を持ち込んで展示した、現在大学で修士作品として研究している「"Toru"モスキート音によって年の功を逆転するゲーム」 という、こどもが大人に勝つためのゲームを展示させていただいた。(作品紹介http://johnsmithworksforgakuseicg.tumblr.com/ 論文のリンクhttp://dl.acm.org/citation.cfm?id=2662973


 初日の夜はホテルの1階で今回のイベントのリーダーであるArt Center NabiのSi Woo Kimという方がアーティスト同士のフレンドリーな雰囲気を作ることに尽力してくださり、大変素晴らしいスタートとなった。我々はビールと、とても辛い韓国のお菓子やカップ麺に舌鼓を打った。このパーティーで我々は大変打ち解け、大いに語り、半数近くが飲み過ぎで翌日遅刻したのは余談である。写真は韓国のあずきバー。


 


二日目からはハッカソンの本番である。
韓国と言う異国の地でどんな寂しい思いをするだろうかと、出国前はびくびくしていたが、いざ行ってみたらなんとに日本からの参加者は私が学部時代に在籍していた多摩美術大学のセンパイ方や関わりのある早稲田大学の生命美学研究の知人など、顔見知りが多く、何より私の大学から後輩がふたり来ており、これで異国の地で生まれたての子鹿のようにプルプル震えなくてもよいと大変安心した。

 初日はまずアーティスト同士の作品を見ながらの自己紹介である。



プロジェクションマッピングと物理ギアの連携やアイトラッカー(目線を検出する装置)実験的な映像作品やテクノ手芸など様々なジャンルで活動する人たちの自己紹介を聞きながら、私は自分の発表を今か今か緊張して待った。私は目立ちたがりだがシャイな性分であるので、人前に立つのは好きだが苦手という非常に面倒な人間である。なんだかんだと英語では数回目のプレゼンであることと、イベント全体のフレンドリーな雰囲気のおかげで何事もなくプレゼンを終えることができた。


 ハッカソンではグループワークと言うことで、日本人の広告ディレクターの古屋遙さんと、韓国のアーティストユニットであり前回のアルスエレクトロニカにも出展していたJunbong Song、Jaehyuck Bea、そして私というメンバーでのグループディスカッションからの制作と言うことになった。

まずはみんながどのような技術やアイディアを持っているか、という話から始まりディスカッションを進めた。
Song、Beaのコンビはアーティスト兼エンジニアと言う様なタイプで、手持ちのものはLedビーコンとセンシング用のカメラ、アイトラッキング用の機材、3Dデータ制作フィジカルコンピューティングなど様々な技術と手持ちの機材の話、この機材でできるアイディアなどを話してくれ、私は興味津々でその話を聞いた。

遙さんは映像系の広告ディレクターで、フィジカルコンピューティングや様々な技術を使った斬新な広告宣伝、店舗でのイベントの企画などをやっており、本人も映像作品を作っているという方であった。ちょうど話題に上がった仕事に自分の先生も関わっており、また、興味があるジャンルであったこともあって大変楽しく話を聞くことができた。

私はというと、手持ちの技術としては前出の研究であるモスキート音関係ものと、学部の頃やっていたデバイスパフォーマンスのときに培った電子工作技術、Max/MSP、そして修士前半に行っていたスピーカー構造を解体したコイルと磁気、音響と振動に関する研究の一部である。
メンバーは特にこの音響関係の技術に大きな興味を持ってくれて、大まかには私のアイディアを採用することになった。

その日は焼き肉を食べた。


三日目は朝から本格的に制作である。
私の英語はそのほとんどをアメリカのホームコメディーやモンティパイソン、シンプソンズなどによって学んだものであるので、往々にして難しい話がうまくできず、要所要所つたわりずらいところは図を使いながら話すなど試行錯誤しながらコミュニケーションを取る、この過程が大変面白かった。


全員で話し合いながらどのような作品が作れるか、というディスカッションを重ね、最終的にスピーカーの構造を応用し、音楽の電気信号を磁気に変え、磁石の指輪で音楽を音ではなく指で感じる。と言うものになった。

 これが決まってからは非常に早かった。ディスカッション自体もディレクターとして活動している遙さんの立ち回りによりスムーズに進行したこともあるが、BeaとSongのコンビの仕事はまさに鬼神のごとき速度であった。こういう構造のものがほしい、という話になったら、私が少しぼんやりしている間に、もう3Dデータでデザインのアイディアが形になっており、私は大変驚いた。うかうかしてはいられない。プログラミングはBeaと私で分担し、SongとHarukaさんがプロダクトのデザインと3Dモデリングさらに遙さんはプレゼントと全体のディレクションを担当した。

ハッカソンというイベントの特徴でもあるが、私たちは休むことなく(間に主催側の用意してくれた優雅な昼食を挟んだものの)制作に明け暮れ、何とも形容しがたい味で有名な韓国の炭酸飲料メッコールを飲みながらコイルを巻き、プログラムを書いた。
Beaの書いたprosessingのプログラムと私の書いた音響部分のプログラムをどのように連携するか、など話し合いながら作業し、このような形で他の人とものを作って行くと言うプロセスは今までの人生の中であまり経験したことがなく、学ぶ所が多かった。

前項で書き忘れたが今回のフライトでは、エコノミークラスが満席とのことで、エコノミーの料金でビジネスクラスに乗ることができたのであるが、私はとにかく気を使われたり、あまり関係のない人に何かしてもらうと言うことが非常に苦手である(これは先生とかセンパイのようなケースは除く)。もう気を使われることに気を使いすぎて、生きた心地がしなかった。人間には分と言うものがあり、ビジネスクラスは私にとって分を過ぎたものであると言ってよいであろう。しかし例えば大きな仕事をするとき、大きな作品を作るとき、必ず人の手を借りなければ行けないであろうことは目に見えており、こんなままではいかん、と考える訳である。今回はグループワークという、分担とそして信頼して任せると言う作業が必然となる形態の中でそのようなことを考えながら制作を進めることができた、それぞれの得意分野が合わさった結果様々な相乗効果が見られ、また、根っこの技術的アイディアが僕のものであっても、どのようにみんなが考え、どのようなものが良いものかというおのおのの哲学がぶつかり合う環境の中でできたものは、絶対に私だけでは想像できなかったものとなった。

これが完成した「Silent Speaker」である。


これは磁石のついた指輪を穴の部分に入れることで音楽の振動を耳でなく指で感じ取ることができる作品である。
見せ方やタイトルなどは遙さんが主導して進めてくれた。



発表は大変好評であり、我々は大いに喜んだ、喜びすぎてその喜びの声は日中韓三国に響き渡り、北京の蝶が驚いて羽ばたき、ニューヨークで嵐が起きたと言う。


我々の他にも海水を吹きかけたリンゴとミネラルウォーターを吹きかけたリンゴ、二つの変化の過程を展示する装置など、リサーチ色の強いものもあればアプリ開発など、様々な形での発表があり、大変刺激的であった。

晩ご飯はなんか豪華な、海鮮鍋のようなものであった。余談であるが韓国の料理が辛すぎて私はこの三日間ずっとおなかが痛かった。辛いけどおいしいので、つい食べ過ぎ、しかも辛いので胃にくるのである。次の機会があれば辛さ控えめのものにトライして行きたい。


チームメイトと、作品に触発されて様々なアイディアを提案してくれた参加者、多くの刺激を与えてくれたアーティスト、そして参加者を幅広くサポートしていただいたSi Woo Kimさん、渡航などのサポートをしてくれたSoeun Kimさん、Art Center Nabiの方々、このハッカソンを紹介していただいた先生方にここで感謝の言葉を述べたい。もはや足を向けて寝ることができないので私は今後地面に足をつけて眠らなければなるまい。

私は三国一の果報者である。
そして何よりの収穫は、このイベントの中で多くのアーティスト達と国を超えて友人となることができたことだろう。


最後に韓国で見つけたガリガリ君っぽいアイスの写真でこの記録を締めようと思う。
帰国の便が早朝過ぎてこの後もうひと騒動あるのであるが、 それはもしも話す機会があったらまたの機会に。

匆々頓首
johnsmith