脚本
・明転
「でもそれで、一体どうしろって言うんだ。」
・暗転
鉄格子のようにも見える手すりに寄りかかり話をする二人。
「歌を忘れたカナリアは」
なよなよした美男子がふとつぶやく。
「おまえ歌なんか歌ったことあったか?」
中肉中背のややがっしりした体躯の男が返す。
「いやとんとないね」
場面は下へ
歯車を組む男、手にはレンチ
「精が出るね」
上から美男子が声をかける。
「そろそろ山場だ、もうちょいでこいつは動くんだ」
ひげ面の男か威勢良く返す。
「舞台美術みたいに行かないものな」
と中背の男が言う。
「あたぼうよ、こちとら中身も作ってるんだ!この発動機がどれだけ重いかわかるか」
美男子「少なくとも僕よりは重いだろうな…」
中背「俺よりも重いだろ」
ひげ面「そうだなあ、多分俺よりも重いぜ」
間
美男子「その、でかい歯車がいっぱい、車輪に連動して、戦車みたいに表に出てるのは、いいね」
ひげ面「ギアがかみ合って動くってのはいいからなぁ、機械ってこうでなきゃな」
美男子「出来たら教えてくれよ」
ひげ面「近いうちにテスト運転するんだ、そんときゃ知らせるよ」
美男子「よろしく」
・暗転
机で小説を書く男。
「うん、いいぞ、近年まれに見る傑作、私の才能に世界も嫉妬することだろう!いいぞ!すごくいい!すごく…はて…どこがよいのだろう、読み返してみるとさっぱりわからん、だめだだめだ!こんなもの!えーい!」
男、破り捨てるような動作をする。しかし一寸思いとどまって。
「しかし破り捨てるのも何だから、引き出しにしまっておこう。そろそろ引き出しがいっぱいになりそうだが」
「いかんなぁよく考えたらここ一ヶ月ほど家から出ていないぞ、しかたない、密室で一人で出来ることは小説を書くことぐらいというが、いかんせん経験に基づかない小説は面白くない、ここはひとつ大学にでも出かけるか。」
立ち上がる男、顔をあらい、無精髭をそりだす。
・暗転