2011年12月27日火曜日

もしタイムマシンがあったらお前のその恋心はずるずると高校まで続いた後、なんか良く分からんうちにぐだぐだになって終わるぞ。と言いにいきたい。あとそれが結構トラウマになるぞ、とも言いたい。まあでもそれも含めて私の人生である、私はこれでいいのだ、他の人がそれでいいかは私には決めかねる。

何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。

なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。

―森見登美彦 「太陽の塔」


街は一面のクリスマスである。電飾は星々の形を描き、人々はサンタの帽子をかぶり、街々の隙間にはクリスマスマーケットが建ち並び、子供達はわたあめを食ったり、大人達はホットワイン片手にブレッドブルスト(焼きソーセージをパンではさんでケチャップをかけたもの、説明はしにくいのではあるがいくつかの点で、確実にこれはホットドックとは違う食い物である。)を食っている。

私はというと、時折小雨の落ちてくる寒空を睨みながら煮レバーの紙皿を片手に、男一人でクリスマスマーケットを見ている。どうしてこんな有様になっているのか。

レバー煮はなんというかただレバーとタマネギを煮た味しかせず、加熱しすぎてぼそぼそしたレバーをもそもそと食っていると思考もどんどん変な方向へと沈んでいく。

なぜ、西武新宿線界隈で天下一品の太鼓持ちとまでうたわれたお世辞の上手い私でも褒める要素をまったく見いだすことの出来ないレバー煮を、まあ捨てるほどでもないし、ともそもそと食いながらこんな所を歩いているのか。

そうだ、楽しまなければそんではないか、そうと決まれば、と。褒める要素無しのレバー煮を一気に胃の中にかき込む、吐かなかったのが奇跡である。


私は一念発起して、まずは様々な小物の列ぶ出店に目を向けてみた。ブレスレットや指輪などの装飾品もなかなか良い、こちらでは子供向けと言うよりはむしろ大人を対象にそう言うものを作っているようで、日本の祭りで見かけるようなプラスチックのおもちゃのようなものでなく、結構貴金属系のものの出来は良いようである。

まあしかしうさんくさいことには変わりない。


その中で私の目をひときわ引いたのは、木彫りのおもちゃの立ち並ぶ中にひときわブサイクな顔の小さな木彫りの猫を見つけた。

私はこいつを今夜から俺の友達と決め、アラブ系の顔立ちのおっさんから2.5€でこの猫を譲り受けた。私はこれを「猫の猫三郎」と名付けた。

さて猫三郎気の向くままにこのクリスマスマーケットを回ってみようではないか。

私は猫三郎に「どっちへ行こうか?」と話しかけてみたのだが、猫なので返事をしない、というか木彫りの人形は喋らない。

仕方がないので私は猫三郎をポケットに突っ込み地面を踏み踏み歩き出した。


なんだか楽しげな観覧車が見えるのでそっちの方へ行こう。


道中にあるのは何だかチカチカキラキラふわふわとして魅力的なものばかりだった。

2011年12月20日火曜日

2011年12月19日月曜日

a-
あーあー
てst

テスト   テスト

「もうがまんできん!ハルヒの顔面にビックバンパンチをぶち込む!」

「もうがまんできん!」

涼宮ハルヒというバカの作ったSOS団等と言う集団に占拠された文芸部室に一人の男の声が響き渡る。そう、何を隠そう俺の声だ。

「ハルヒの顔面にビックバンパンチをぶち込む!」

長門が本を落とした、古泉は信じられない、と言った形相でオセロの盤越しに俺を見ている。手を滑らせてお盆を落とし、湯のみをぶち割ってお茶を散乱させた朝比奈さんは口をぱくぱく開けて驚いている。金魚みたいでかわいいですよ。

驚いたことに第一声を発したのは朝比奈さんだった。
「でも、キョンくんはビックバンパンチを使ったら…」
それは承知の上です、結果どうなるか、それが分かっていても男にはやらなければいけない時と言うのがある。最近のハルヒの振る舞いには、もう俺の固く片結びに結ばれて子供の頃からほどけたことのない堪忍袋の緒だって金属疲労で粉砕せんばかりの勢い。もし、次にあいつが何かやらかしたら、その時は…。
握りしめた俺の拳から信じられない量の手汗が流れ落ちる。

長門は落とした本をそそくさと拾う、椅子に座り直す時に小声で「どっこいしょ」と言ったのが聞こえた、こいつも相当混乱しているようだ。

古泉の顔にはもう笑顔は残っていない、ただ一筋の汗が、古泉の顔をつう、と流れ落ちる。

「本気…なんですね…」

ああ、覆すつもりはない。もしあいつがまた何かやらかすようなことがあったら俺は…

「とりゃー!」

ハルヒがドアを勢い良く開けて部室に入ってきた。

学校は消失した。

俺の繰り出したビックバンパンチは躊躇することなくハルヒの顔面へその狙いを定めていた。第三宇宙速度を凌駕した俺の拳と、窓を蹴破って入ってきたハルヒの顔面が接触した瞬間、その衝撃波によって、まったくいっぺんの苦痛も与えずに、ハルヒの顔面を消し飛ばした。恐らく何が起きたのか、理解することすら出来なかったろう。さらにその衝撃波はとどまる所を知らず、周囲の空気との摩擦によって異常な高熱を生み出し、膨張した空気が俺を中心にする形で大規模な爆発を起こし古泉と朝比奈さんは窓ガラスを突き破って校庭の方へ吹き飛ばされていった。長門は情報操作によって椅子の位置をキープしていたが、そのあまりの衝撃波と熱量のため、常に自分の身体の解けていく部分を再構成し続けない限り、そこに存在することは許されなかっただろう。それでもそこに存在し続けてくれたことは、俺の決意を最後まで見届けようという、長門なりの優しさだったのかもしれない。とどまることのない熱と力の奔流は、校舎の壁をすべて粉砕し、柱をへし折り、鉄骨をねじ曲げ、全校生徒を灰の山へと変えた。俺のビックバンパンチによる衝撃波で北高から半径7万キロメートルはクレーターと化した。そこには全身全霊をパンチに込めたことによって、もはや残りの生命すべてを使い切った燃えカスのような俺と、ただ椅子にすわって、無言で本に手を置く長門だけが残った。やがてここに大量の海水が押し寄せてくるだろう。だが俺の命もそこまでは持たなそうだ。ありがとう長門見届けてくれて。そう言って俺は長門の方を見た。悲しげともいえそうな、切なげともいえそうな、そして何よりも、はかない笑顔がそこにあった。俺はこいつを最後まで無邪気な笑顔にすることは出来なかったな、と思い、そして、息を引き取った。どうどうと海水が押し寄せてくる。
長門は海の水の濁流の中へ掻き消える。これでよかったんだ。
さらば涼宮ハルヒ。そして、さようなら、俺の大切なSOS団の仲間たち。

—「もうがまんできん!ハルヒの顔面にビックバンパンチをぶち込む!」 完

2011年11月30日水曜日

石橋を叩いて…

石橋を叩いて渡ると言う言葉がある。

私の友人の小林はそういうタイプの人間である。彼は些か石橋を叩き過ぎる傾向があるが、まぁ叩き壊したりするレベルでは無いので問題はあるまい。彼は石橋を叩くように自分自身も叩き上げ、今では帝大の院で研究する身の上である。


石橋を叩かずに渡る奴もいる、彼は先人も渡ったのだから大丈夫だろうと言う、彼にとって今日の社会を成立させているのは信用である。10年崩れなかった物が10年と一日では崩れまいと言う信仰である。彼は信仰の上をひょいひょいと渡って行く。また、信用を得たものは、進んで信用を損なうまいと言う信念も持っている。彼の世界は磐石である。


石橋を渡ろうとせぬ者もいる。

ふらふらと遊び歩いている者もいれば、全然関係無い事に没頭して石橋が目に入らぬ者もいる。

前者は時が来ると観念して石橋をひょいと渡ってしまう。後者は偶々彼の芸が川渡しの船頭の目に止まり、船で揚々と川を渡ってとんでもない所に着いたりする。

石橋の中程で右往左往しているものもいれば、叩いたら即座に粉々になるのではと疑心暗鬼になる者もいる。渡り切ってから後悔する様な素ぶりを見せる者や、向こうからこっちへ帰ってくる奴もいる。欄干を渡ろうとする者、橋から川を眺める者、身投げする者、様々である。


石橋を叩いて叩いて叩き続けて、遂には石橋を粉砕し、挙句にこの石はどこどこの国のどういう形質の石であるかを図鑑を引いて調べ、中に化石など入っていないかと、個別の石まで粉々にし出す者もいれば、石橋を渡るを潔しとせず、イカロスよろしくロウで翼をこしらえるのに余念がない奴などもいる。彼らの殆どはロウの翼で飛ぶ前に何かと理由をつけて橋歩いてを渡ってしまう。重症になると石橋の存在そのものを疑い出す奴も出る。まこと世界は十人十色、各人各様、三者三様、千差万別である。

2011年11月22日火曜日

涼宮ハルミの憂鬱

世界を多いに盛り上げる涼宮ハルミの団、略してSOS団が発足してなんだかんだでもう随分立つ。
これで何度目の春だろう、などと窓の外の桜を見ながら思った。
俺にいたっては高校四年生だし、朝比南さんは無職である。南雲と小泉は随分前に退学処分になったが未だに教室に居座り、団室にも顔を出している。

 そんな春のうららかな日差しの中我らがSOS団団室こと文芸部部室は古今東西に存在するすべての精神病院を足しあわせても足りない位異常な集団の集まりと化していた。
ハルミのアホは去年興味本位と言うとんでもない理由で自らに行ったロボトミー手術により団長席に座りながらほぼ何も喋らない状態で焦点の定まらない目線を部屋の隅から隅へふらふらさせているし、俺がムリヤリにでも入れなければ風呂にすら入らない南雲は窓際で凄まじい異臭を放ちながら電話帳を読んでいる。
朝比南さんは全裸に性器ピアスという凄まじい格好でSOS団諸氏に愛のこもったお茶、こと尿を湯のみに入れて渡して行く。ああ、まだ暖かい。
ちなみに小泉はゲイだ。

「どうしたんですかキョンくん?飲まないんですかぁ?」
 ああ、初めて会った時は天使のように美しかった朝比南さん、この4年間でいったい何が彼女をここまで変えてしまったと言うのか。
や、むしろその天使のような容姿を持ったままそのような格好をしているから質が悪い、朝比南さんもしあなたの全身至る所に中学時代に入れたと言う恐ろしい阿修羅の入れ墨さえ入っていなければ、俺の理性はどうにかなってしまいそうですよ。
などということを考えながら、出来れば普通のお茶が飲みたいんですが、などと当たり障りのないことを言ってみる。
「なに言ってるんですかキョンくん?それ普通のお茶ですけど…」
いやあんたさっき部室のど真ん中で湯のみに放尿してたろう!?
「ああ、確かにこれは少し癖が強いかもしれませんね…」
そう言いながらいつもの平然とした笑顔で尿を飲み干す小泉、無言で尿を飲む南雲、おまえこれ以上臭くなったらそろそろ通報されるぞ!?
やれやれ、一体どうしてこうなっちまったんだ…。

そもそもことの始まりはあいつのとんでもない自己紹介から始まったんだ…。

詳しくは覚えていない、俺は過去にはこだわらないタイプの人間だからだ、だからあいつの自己紹介の台詞は明確には思い出せない。
入学式後初めての教室で初めてのHR、担任の丘部と言うまあとるに足りない野郎がクラスの一人一人自己紹介をしよう、などと言いだしたもんだから、面倒なことになったもんだ、と思っていた。
将来の夢は世界征服、好きな食べ物は肉、と言うような適当な自己紹介でお茶を濁して後ろの席の奴の自己紹介に耳を傾けるとそいつは言った。

宇宙人、未来人、超能力者、異世界人がいたら私の所へ来なさい。とかなんとか、そんな内容だったように思う。

 その頃の俺はと言えば、世の中の普通さに呆れ、退屈に押しつぶされそうになりながらも、新しい高校生活、と言う環境の中で、もしかしたら何か面白いことにであえるのではないか、と言うちょっとした期待を持っていた。
もし高校生活で面白いことや普通でないことが起こらなかったら、校内で銃を乱射してその後自殺しようと思っていた。
いや、日本では銃はなかなか手に入らないだろう。
まだ爆弾テロの方が現実的かも知れない。
いや、現実的とは言いがたいか、むしろ猟奇殺人の方が…。
などと言ったことに考えを巡らせていたもんだから、そんな異常な奴らがいたらちょっといいな、と思ったのだった。
結論から言おう、そんな奴らはいなかった。

 きっかけは忘れたがハルミのアホが部活を作ろうと言うので人数不足を補うために引っ張ってこられたのが俺だ。
俺を引きずって部室棟へ猛ダッシュし文芸部室のドアをタックルで破壊すると、結構な人数いた文芸部員を大量のスライムとゲロをぶちまけることで追い出し、占拠して世界を多いに盛り上げる涼宮ハルミの団、略してSOS団の発足を宣言した。
俺はあまりに常識しらずな奴の奇行に辟易とし顔面をグーで殴った。
そのとき文芸部室の隅にスライムとゲロまみれで座っていたのが南雲美希と言う女だった。
南雲の説明はまた後ほどすることとする。

 翌日まだゲロ臭い文芸部室でぼんやりしていると、ハルミのアホがドアをタックルで破壊して入ってきた。
何事か、と思ったら小脇に小柄だが巨乳、と言う大きな矛盾をはらんだ存在を抱えて、「新しい部員を捕まえてきたわよ!」と大声で言うと、にっと笑った。昨日やや強く顔面を殴りすぎた所為か、ほおは赤く貼れ前歯は2本ほど折れていたが、俺は気にしないことにした。
俺はハルミの行動が少しでも常識的になれば、と思い心を鬼にして顔面をグーで殴った。
連れてこられた女性は朝比南みるくと言った。朝比南さんの説明も後ほどすることとする。

そしてなんだかんだで時がすぎ、南雲の制服のゲロのしみもカピカピに乾いた頃、またハルヒが勢い良くドアをタックルで開けて入ってきた。
「謎の転校生を連れてきたわ!」俺は何となくハルミの顔面をグーで殴った。人中は急所である。
転校生は小泉いっきと言った。なぜだか知らんが初対面でゲイであることをカミングアウトされた。
こいつに関しても後ほど説明するとしよう、あまりしたくはないが。

「…読んで」
そう言う南雲に手渡されたのは「めざめよ!」と書いて在るペラッペラの本であった。
いや、そういうの、ほんとにいいから、と言って突き返そうとすると、どうやら断固拒否の姿勢である。
それにしても臭い、臭過ぎる、こいつはいつ風呂に入ってるんだ?洗濯もしないのか?
「…必要性を感じない」
そうか、でも風呂には定期的に入った方がいいぞ、せめて下着くらいは変えてるんだろ?
「…パンツは」
よかった、さすがにそこまで人間としての尊厳を失っている訳ではないようだ。
「…一ヶ月に一回は」
俺は朝比南さんと協力して南雲を野外の水飲み場に引きずり出し、デッキブラシとモップできれいに洗った。
こいつをこのまま乾燥機に放り込むわけにはいかないので、太陽光消毒と言うことで、保健室から物干し竿を借りてきてそこに吊るしておいた。
暦はもうゴールデンウィークを過ぎ、夏の足音を感じさせるさわやかな空がそこにあった。

さて数日経ったある日南雲が「あの本は読んだ?」というので、すまん、破って捨てた。と応えると、しおりを差し出してきた。
夜7時に公園のベンチにて待つ。
俺は何事か、と思い夜七時に公園のベンチへ南雲と一緒に向かった、公園の名前が明記されていなかったので、俺一人だと辿り着けない可能性があったからだ。
南雲が公園のベンチを指差す、座れってことか?南雲はとことことベンチに近寄って座る。俺もそれにならう。なぁ南雲…
「…家にきてほしい」
なら最初からそう言えよ、なんで公園のベンチを挟む必要があったんだ。

そこで聞いた話は、何だか信じられないようなとんでもない話だった。
涼宮ハルミはかつてヨーロッパを征服したナポレオンと日本を統一した第六天魔王とモンゴル帝国のチンギスハーンの末裔であり、カバラと錬金術の知識によって得た秘法によって願望を実現する能力を持っていると言う。そして当の南雲はと言えば、情報統合思念体(インターネット)によって涼宮ハルミを観察するために作られたヒューマノイドインターフェイス、要するに宇宙人であり、しかも前世で魔王ゴルゴンゾーラに対抗する光の戦士の一人であった南雲は、ゴルゴンゾーラに洗脳された元光の戦士であり南雲の許嫁であった俺を助けるために命をかけて戦い、最後にはお互いがお互いの刃に倒れるも正気に戻った俺と抱きしめあい来世で結ばれることを誓い合った間柄であるとのことである。

 部室の隅で電話帳を読んでは、読み終わったページをムシャムシャ食べている姿を見ていた時からヤバそうな奴だ、と思っていたが、ここまでヤバいとは思っていなかった。あとくせぇ。
こいつの家あり得ないくらいくせぇ、となりの部屋から恐ろしい数の蠅の羽音のような音が聞こえる。
なあ、南雲そこの襖の奥はどうなっているんだ?
「…何もない」
そうか、なにもないのか
俺はてっきりお父さんとお母さんがそこで死んでて腐っているのかと思ったが、どうやら気のせいのようだな、じゃあ俺は帰るよ。お茶、ごちそうさん。飲んでないけど。なんか油っぽいものが浮いてたからさ。
「…」
ん、何か言ったか?
俺は南雲のぼそぼそと動く口に耳を近づける。
「……………あなたと私は前世からずっと結ばれる運命だった、もう放さない、もう逃がさない永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠い永遠に…………」
ああ、なんだ、無口なんだと思ってたけど声が小さくて聞こえにくかっただけなのか、おまえもうちょっと大きい声で話した方が良いと思うぞ。
俺はそう言って少し笑うと、ドアを開けて部屋をあとにした。


「私はこの時代の人間ではありません、もっと未来からきました。具体的には西暦2132年、世界が第五次核戦争によって廃墟と化し、様々な疫病、伝染病が蔓延し、オゾン層の消失によって強力な宇宙線に晒された生態系は激変し、人々は怯えながら、地下鉄とシェルターに籠り、わずかな水と食料、この食料は主に余剰な人間でまかなわれます、によって生きながらえている未来からきました。」
このとんでもない台詞は何を隠そうあの朝比南さんの口から出てきた言葉である。
うららかな日差しの中、公園のベンチで男女がならんで座っている。
こんな朗らかな光景を見て、誰がこの台詞を連想できるだろう。
「こんなこと言っても、信じてもらえませんよね?」
はい。
「でも本当なんです」
はい。
「信じてくれるんですか?」
いいえ。
ああ、この人までも、と錯乱している俺に、朝比南さんは追い打ちかける。
「じゃあそれを証明するために、今から未来の私を連れてきますから、ここで待っていてください!」
そう言うと朝比南さんは足早に公園の入り口の方に走って行った。
公園の門柱の影に入ったかと思うと、誰かと話をしているような声が聞こえる。
声が止んでしばらくするとやや大人びた雰囲気の、いや、見れば見るほど、確かに未来の、大人の朝比南さんと言った印象の女性が門柱の影から出てきて俺の方に歩いてくる。純白のブラウス、大きな胸、ややタイトなスカート、パッと見はOLっぽい。
俺に向かって微笑みを投げかける、ヤバい、美人だ、クラっと来た。
「こんにちわ、えーと…キョンくん?」
なんで俺の名前を知っているんだ?やはり未来の朝比南さんなのか…等と非現実的なことを考えてしまう、それくらい魅力的な女性だった。
「あ、名前はさっきみるくに聞いたので…」
その美しい女性は朝比南さんそっくりの笑顔で言った。
「妹がなんだか、あの、アレで、すいません…」
あ、はい、そうですよね、普通にお姉さんですよね。

「お察しの通り超能力者です」
ゲイの次は超能力か、こいつはカミングアウトする項目を一体幾つ持ち合わせてるんだ?
下校途中にいきなりそんな話を聞かされる俺の身にもなってくれ。
「信じていただけないのですか?」
俺はおまえがゲイだってことと、俺に気があるってことと、さらに毎日団活で顔を合わせなければいけないってことだけでも信じたくないのにそんな冗談みたいなことが信じられるか。
第一超能力ってどんなことが出来るんだよ、やってみせろ。
「ここではお見せできません、ついてきていただけますか?」
小泉がその台詞を言い終わるか終わらないかのタイミングで凄まじい轟音が鳴り響く、タクシーだ、タクシーが俺たちの前方10メートルほどの所にあった電柱に突っ込んだのである。
…それがおまえの超能力か?
「いえ、関係ありません、僕の能力は限定的な場所でしか発揮されないのです。」
そうかい。
「しかも僕はその限定的な場所を一度も見つけたことはないのです、でも分かってしまう、僕には超能力があると言うことが、それが超能力者の悲しい性です…」
なに言ってるんだこいつは。タクシーの運ちゃんは小泉の知り合いだったらしい。


 さて団員諸氏の強烈なカミングアウトのオンパレードを受けた俺はそれでも団室に顔をだし平凡とは言いがたいがどうと言うことのない日常を過ごしていた。
ハルミのアホが朝比南さんをSOS団のマスコットキャラにする等と言い出し無理矢理メイド服、バニースーツなどを着せたが、露出度の高い服を着ると朝比南さんの身体に刻まれた阿修羅の入れ墨がまろびでてしまい、何だか団室が気まずい空気になる。
当の朝比南さんはというと露出という新しい性癖に目覚めてしまい、しかも自分はいずれ未来に帰る存在である、と言う妄想も手伝って旅の恥はかき捨ての精神が働き、彼女の露出狂的な振る舞いはとどまる所を知らなかった。
 南雲は相変わらず部室の隅の椅子に座り、電話帳をムシャムシャ食べている。俺と小泉はと言えば、小泉の考えた一発感電ドライヤーゲームなるオリジナルゲームに興じている。
水浸しの小泉をドライヤーのコードでぐるぐる巻きにしドライヤーのスイッチを入れる、と言う画期的な遊びである。
俺は気が乗らなかったのでぐるぐる巻きの小泉を放置していたが、何を思ったか小泉は自分でドライヤーのスイッチを入れた。死んだ。
いや、死にはしなかったが救急車で運ばれた。

でも俺はこんなキチガイだらけの団活を、何だか少し楽しいもののように思っていたように思う。

そんなある日のことだ、下駄箱にラブレターのような体裁の手紙が入っていたのである。
「放課後1年5組の教室で待ってます。」
手紙を書くならそこに告白の内容を書けばいいのに、何を考えてこんな回りくどいことをするのか、冷静に考えたらほとんど果たし状のような内容ではないか。
こんな回りくどいことをするのは南雲か?いや、あいつの触ったものが発する独特のゲロみたいな匂いはしないな。小泉ならラブレターに精液をしみ込ませるくらいのことは平気でするだろう、その臭いもしない。何より奴は全治3か月の入院中だ。とすると朝比南さんか?朝比南さんなら確かに教室で全裸で待っていると言うことはあり得る。最近どうもそう言うプレイに目覚めたらしいからな…。
等と考えながら俺は誰もいなくなった1年5組の教室へ向かった。

誰?
髪が長い少女は「クラス委員なんだけど、覚えててくれなかったの?」と言った。
すまん、誰?
「私は南雲さんやあなたと同じ光の戦士の末裔よ、あなた前世で許嫁だったからって私の南雲さんを横取りなんて、いい度胸してるじゃない?魔王ゴルゴンゾーラにそそのかされて私たちを裏切ったって言うのに、いいご身分ね?」
何を言ってるんだこいつは、俺はかなり混乱していたと思う。俺が状況を飲み込めた時には髪の長い少女はナイフを片手に俺の方へ突進してきていた。
「あなたを殺して魔王ゴルゴンゾーラの出方を見る!」
くそっ、ついに二人目の光の戦士が出たか!帰れ!
俺はなんとかわきへ逃げて髪の長い女のナイフをかわす。これはなかなかヤバい状況だ。なんとか逃げなくては、と思いドアに駆け寄り取手に手をかける。開かない!?鍵がかかっている?教室のドアの鍵は内側からしかかけられないし内側からならあけられるはず!そんなバカな!一体どんな魔法が…。窓の方に逃げる。ダメだ、ここは二階、飛び降りるにはちょっと高い。ちょっとだが。
誰でもいい、助けてくれ!そう思ったとき廊下の方から凄まじい異臭を感じた。ガラッと言うドアの空く音がする。
「まさか!?」
長い髪の女が驚いたようにドアの方を見る。
「…1つ1つのトラップの作りが甘い、だから私の侵入を許す」
さっきは開かなかったドアを一体南雲はどうやって開けたんだ、その謎は結構あっさり解決した、俺のあけようとしたドアは、朝倉の作ったトラップにより、ほうきでつっかえてあったのである。その反対側のドアは普通に開く。
「…あなたは大きな間違いを犯した」
南雲が髪の長い女に近づいていく。
「…私たちは光の戦士の末裔ではない、あくまで前世相であり、血縁的な関係はないものとされている」
南雲は俺たちには見せたことのない恐ろしい表情で髪の長い女ににじり寄って行く。右手には大きな万力を持っていた。
「あ…あ…っ」
髪の長い女は全身の力が抜けたようにへたり込み失禁した。
「…そのような根本的な過ちを犯すあなたには光の黙示録を記すための右手は必要ないと判断される」
そう言うと暴れる髪の長い少女の右手を掴み万力にはさみギリギリと締め上げて行く。
髪の長い女の声にならない悲鳴が響いた。飛び散った血で南雲の眼鏡は血塗れになり、前が見えてるのか怪しい位になっている。おまえそれで前が見えるのか?眼鏡とった方がよくないか?
眼鏡を外して南雲は少し笑ったように見えた。とても邪悪なそれは、俺の目には何やら少し魅力的に映ったのだった。
眼鏡、ない方がいいんじゃないか?
「…そう」
その方が似合ってる。
「…」
南雲は言葉もなく失禁した。しかも立ったままうんこも漏らした。
そこにクラスメイトの溝口が忘れ物を取りに戻ってきた。
ドアを開けた瞬間あまりの臭さに溝口は嘔吐しながら気絶した。
団活で南雲に毎日会っているおかげで刺激臭に対して多少の耐性はついているであろう俺でも、この教室はガマンならんほどに臭かった。
俺は忘我の表情でクソをひり出し続ける南雲と、仰向けでゲロに溺れる溝口を放置して帰った。
翌日俺のクラスは閉鎖された、警察ではあの強烈な刺激臭を新手のテロとして捜査しているらしい。
髪の長い女は、どうやら不登校になったと聞く。


目が覚めるとそこは教室だった。
誰もいない、薄暗い教室。状況が飲み込めず、辺りを見回す。
俺は確かに家で布団に入って眠りについたはず。なぜこんな所に。
ふらふらとうろつく、とりあえず団室に向かってみよう。いつもと違って暗い学校は何だか俺を少しわくわくさせた。
団室に行って見るといつも南雲が座っている椅子の上に大学ノートが乗っていた。表紙はマジックで真っ黒く塗りつぶしたあとに修正液で光の黙示録と書かれていた。そこには南雲によって書かれた前世で光の戦士だった頃のことや俺と南雲が前世でどのような戦いを繰り広げ、南雲が愛する人と戦うことにどれだけ苦悩したかと言うことが書いてあった。同じく光の戦士である麻倉が裏切り、南雲によって拷問に遭う、と言う所は、つい最近書き足された所であるらしくページは比較的綺麗だった。そして最後には南雲のキスで魔王ゴルゴンゾーラの洗脳から解放され、愛を確かめあう二人。
俺はその大学ノートを見なかったことにして昇降口の下駄箱前の掲示板に貼付けておいた。
ふらふらと校内を徘徊し、何を思ったか屋上に出ると、そこには何故かハルミのアホがいた。
「…キョン?」
ハルミのアホは何だか知らんが泣いているらしい。
俺は泣いている女と言うものが嫌いなので、勢い助走を付けハルミの所へ走り寄った。

こんなときどうすればいいのか、俺はその答えを知っているじゃないか!
朝比南さんは私のせいだと言っていた、そんなことがあるものか!
南雲は光の黙示録を団室においておくことで俺にヒントを与えてくれたのかも知れない!
そして小泉は入院中だ。
力いっぱい今のハルミを受け止めてやる!そうだ、それしか俺には出来ないんだからな!
俺は勢い付けて走った助走の速度を殺さないよう流れるような動作でハルミの涙に濡れる顔面に拳を叩き込んだ。

目覚めると俺はベットの中だった。
右手には明らかに渾身の力でハルミをグーで殴った時のしびれのようなものが残っている。
夢…じゃなかったのか…

どうやら俺は夢遊病を再発したらしい。
あの薄暗い学校の光景は夢の中ではなく俺が寝たままに訪れた学校の光景だったようだ。
なぜあそこにハルミのアホがいたのかは分からない、しかしあいつも俺の鉄拳制裁を受けて今後は夜遅くに出歩くという奇行も減ることだろう。

何だかとても清々しい気分だった。

いろいろなことをハルミのアホに話してやりたい。

自分は前世で光の戦士だった宇宙人だと言う妄想を抱いている臭い女と10歳上の姉を未来からやってきた自分だと言って聞かない露出狂と、ゲイで現実逃避願望がありしかも真性のドMという救いようのない男の話をしようと思う。

「みんなそろってるわね!?」
ドアをタックルで破壊して団室に飛び込んできた満面の笑顔のハルミの顔面に、俺は力いっぱいグーで拳を叩き付けた。

涼宮ハルミの憂鬱 完

2011年10月17日月曜日

でも、いささか見るに堪えない

    森見登美彦「四畳半神話大系」


 男がただ一人悶々と悩んでいる、これはなかなか絵にならぬ、しかも理由がメールの返事が来ないから、などと言う女々しき理由ではまったく様にならん。男はどんと、もっと大きなことで悩むべきである、具体的には世界平和とか、あと世界金融情勢とか。

 私がベルリンで生活を初めて、早くも3週間を過ぎようとしている。今借りている家は来週には出なければいけないので、次に住む家が見つからねば宿無しである。いろいろな所にメールを送って見ているがなかなか決まらぬ、しかも送ったメールに関して英語の分かるものに聞いてみた所、之では失礼に当たる、返事が来ぬのも当たり前、等と言われたからには私のセンチメンタルな、それこそ水に浸けて7時間の経過したでろでろのポッキーよりも脆い私のメンタル(重複表現)は、甚大なダメージを被った訳である。この世に無知によって行われる無礼や過ち以上にあってはならぬことがあろうか。いや、なくはないだろうが、これはなかなか据わりの悪い、居心地の悪いことである。しかもいわんや言い訳もなかなかうまく英語で出来ぬので困ったものである。

 とりあえずもっとダイレクトに自分がどうしたいかをメールで送れ、とアドバイスを受け、「明日暇でしょうか、出来ればお会いして家のことなど細かくお話ししたく存じ上げます」等と言う内容のメールを送るも、明日はちょっと急きすぎではあるまいか、などと送ってから後悔する始末。恋愛相談じゃないんだからさぁ。


 しかし何より面倒なのは現在借りている家でインターネットが使えないと言うことである。これは何とも面倒で、腹立たしい。腹立たしいが今借りている相手も私の通う先の大学生であるので、わざわざ文句をつけて悶着を起こすのも面倒だ、波風を起こさず、唯唯その隙間を飄々と生きたい、と言う私の信条に反する。そうして飄々と生きるのを望むが内に、徐々に伸されて乾燥し、スルメのような薄っぺらな人間になることであろう。しかし諸君、よく噛んでみてくれたまえ、スルメとは如何に深く、深遠な味(重複表現)のすることか。いや、私の腕は噛まないでくれたまえ。

 と言う訳で最近はもっぱら大学のパソコン室へ忍び込んで(正規の利用方法は知らぬのでドアが開いてる時に勝手に入って居座っている。)インターネットをしている。何事もやってやれ、である、怒られてから考えよう。それに怒られたとしても、どうせドイツ語はわからぬ。


 こう僕はこちらに来てから、やたらと「different」と言う単語を使う。本当に何もかもがディッファレントである。外人と言うのは理解しがたい所があって、しかも私の今まで生きてきた世界で通用してきた常識が通じないようである。

私はかつて留学を希望した理由を述べよと言われた時に「肌の色も違う、主義主張も異なり、そして何より私の通じない言語でもって私から見えない所で文化を形成している外国と言うものを一度この目で見てみたい」という旨のことを言ったように思う。

本当にあったので驚きである、外国。

 いや、むしろこれは私がわざわざ飛行機に乗って遠くヨーロッパまで観測に来たからこそ生じたのやも知れぬ。北京で蝶が舞うと、どっかでハリケーンだか黒死病だかが起こるという(北京に生息する蝶の数を考えればいまだ世界が滅亡していないのは不思議である。)が、私が飛行機に乗るとヨーロッパが産まれる訳である。神は22年と9ヶ月目にヨーロッパをお作りになった。

そう思えば世界はなんと簡単なることかな、私が眠れば世界は死ぬのである。

いや、寝るな!この寒さの中寝たら死ぬぞ!


 かくてベルリンとは何だか兎角寒い地域である。それにしてはここの人たち、ランニング一枚だったりTシャツにちょっとしたパーカーでうろうろしたりしているので、たぶん違う人種なんだろうなと思う。そうだ、違う人種だった。


 駅や道ばたには浮浪者、物乞いが驚くほど多く、電車では一駅ごとに車両に物乞いが入ってきてはコーヒーの紙コップに施しを、と言って回ったり、楽器を演奏したり、演奏したあと紙コップを持って回って施しを求めたり、声高に何やら政治的なことかな、いや、政治的なことじゃないかも知れないけど、私はドイツ語はさっぱりなので、もはやそれは単に騒々しい雑音なのだが、演説して回り、演説しながら紙コップを持って施しを求めたりしている。私は日本人的な高潔さ、施しをあたうることは罪悪である、という何だか偏った価値観でもって、未だ一度も施しを与えたことは無い。私が欲しいくらいである。

 いや、それでもまだ、夜道で絡んでくるアラブ人や、スキンヘッドの白人よりはましである、治安が良い悪いの問題じゃない、ここの人間は他人に関わりすぎなのだ、私は出来ればあまり人とは関わりたくない、相手に親切にされればされるほど、私の不勉強によって相手を煩わせてしまっているのではあるまいか、と思ってしまうのである。英語が不出来であるが故に、相手を困らせてしまう、しかも善意で接してきてくれていた人間も、途中でじれったくなってイライラし出す、ならはじめからほっておいてくれたまえよ。

 誰も僕を知らず、僕の方でも誰も知らない所でありさえしたら、とはよく言ったものである。こんなに住みにくい所は他に存在しないだろう。より住みにくい所があるとしたら、それは推そらく誰もいない所である。

 …いや感謝していない訳ではないのだ、ただ私の不勉強故、勉強勉強また勉強である。


ああ、望郷に咽ぶこと頻り、そろそろ書くこともつきたのでこのあたりで切り上げるとする、もしここまで読んでいただけた殊勝な読者が居たのであればここでお礼申し上げる。あとは感想を書簡に書いてヨーロッパまで送ってくれたまえ。エアメールは高く付くがよろしく頼んだよ。