2013年2月5日火曜日

私の話。

脚本
・明転

「でもそれで、一体どうしろって言うんだ。」

・暗転

鉄格子のようにも見える手すりに寄りかかり話をする二人。
「歌を忘れたカナリアは」
なよなよした美男子がふとつぶやく。
「おまえ歌なんか歌ったことあったか?」
中肉中背のややがっしりした体躯の男が返す。
「いやとんとないね」

場面は下へ
歯車を組む男、手にはレンチ

「精が出るね」
上から美男子が声をかける。
「そろそろ山場だ、もうちょいでこいつは動くんだ」
ひげ面の男か威勢良く返す。
「舞台美術みたいに行かないものな」
と中背の男が言う。
「あたぼうよ、こちとら中身も作ってるんだ!この発動機がどれだけ重いかわかるか」

美男子「少なくとも僕よりは重いだろうな…」

中背「俺よりも重いだろ」

ひげ面「そうだなあ、多分俺よりも重いぜ」


美男子「その、でかい歯車がいっぱい、車輪に連動して、戦車みたいに表に出てるのは、いいね」
ひげ面「ギアがかみ合って動くってのはいいからなぁ、機械ってこうでなきゃな」

美男子「出来たら教えてくれよ」

ひげ面「近いうちにテスト運転するんだ、そんときゃ知らせるよ」

美男子「よろしく」

・暗転

机で小説を書く男。
「うん、いいぞ、近年まれに見る傑作、私の才能に世界も嫉妬することだろう!いいぞ!すごくいい!すごく…はて…どこがよいのだろう、読み返してみるとさっぱりわからん、だめだだめだ!こんなもの!えーい!」
男、破り捨てるような動作をする。しかし一寸思いとどまって。

「しかし破り捨てるのも何だから、引き出しにしまっておこう。そろそろ引き出しがいっぱいになりそうだが」

「いかんなぁよく考えたらここ一ヶ月ほど家から出ていないぞ、しかたない、密室で一人で出来ることは小説を書くことぐらいというが、いかんせん経験に基づかない小説は面白くない、ここはひとつ大学にでも出かけるか。」
立ち上がる男、顔をあらい、無精髭をそりだす。

・暗転