2016年10月25日火曜日

長門有希の憂鬱

サンタクロースをいつまで信じていたかと言うと断じて信じていなかった。
そして後ろの席には涼宮ハルヒがいた。
涼宮は自己紹介で「宇宙人、未来人、超能力者、異世界人がいたら私のところに来なさい」と「以上」と言った。
そして俺は涼宮に部活を作ると聞かされて、文芸部室に連れていかれた。
そこには銀色の宇宙服に包まれた、まるで2001年宇宙の旅のワンシーンのような格好をした長門有希という少女がいた。少女は「長門有希」と自己紹介すると「$÷°¥7々5÷°☆→々>…〜€」と言ったが、俺にはさっぱりわからなかった。
ハルヒは部活の名前を「SOS団」にすると言ったのだった。
活動目的は宇宙人、未来人、超能力者、異世界人を探し出し、仲良く遊ぶことだという。
翌日ハルヒは朝比奈みくるというスカートのポケットをはみ出させ、自動乾燥装置付きのジャケットを羽織り、見たことのないモデルのナイキのシューズを履いた朝比奈みくるという女性を連れて来た。こんな部活に入らなくても良い、という旨伝えると、彼女は「こうなることはわかってましたから」と言い「それに長門さんもいますし」と言った。
ビラを配りに行くと、ハルヒがバニーガールの格好で言って、朝比奈さんもバニーガールの格好をさせられた。涼宮たちが校門でビラ配りをしている様子を窓から眺めていると、ドアからもう1人朝比奈さんが入ってきた。
「すいません、バニーの耳を忘れてしまったので、五分前の過去に戻って取りに来ました」と聞いてもいないのに説明すると「あ、これは禁則事項だった」と舌を出して自分のうっかりをごまかすようなそぶりを見せた。「タイムパラドックスが起きちゃうので、もういきますね」と言うと、朝比奈さんは廊下に停めてあったデロリアンという自動車に乗り込み、時速88マイルまで加速して炎の轍を残してきえてしまったのだった。
しばらくすると転校生がやって来た。無論涼宮はその転校生を捕まえて、部室に連れて来た。転校生は「んっふ」と笑うと、ポケットからハトを出し、スプーンを五本一度に曲げて見せ、トリックもないのにハルヒを浮かせて見せたのだった。「サイコキネシスというやつですよ」と奴は言った。
長門はよく本を読んでいるので、なんとなく気になって本を覗き込んでみると、その本は見たこともないような物質でできた代物で、書いてある文字は全く俺には理解できないものだった。
「その本、面白いのか?」
と聞くと、面白いと答えた。随分本を読んでいるようなのでオススメを聞いたら、表紙のカバーに『パニクるな』と大きく書かれた銀河ヒッチハイク・ガイドという本を借りることになった。
「ところでなんでいつも宇宙服を着てるんだ?」と聞くと
「地球の大気構成は我々の母星のそれと大きく異なるため、この宇宙服を脱ぐことができない」
と答えた。長門は俺に向かって人差し指を突き出したので、なんとなくその人差し指に自分の指を向けると、そこに青い光がほとばしり、俺は宇宙の記憶を見ることになった。
それからいく日か経ったが、ふと随分と長いこと、長門から借りた本を読んでいなかったことに気づいたので、寝しなに読んでみるか、と思い立ち銀河ヒッチハイク・ガイドの表紙をめくった。中身はちょっとした電子計算機のような装いで、随分操作に手間取ったのだが、どうにか俺は、宇宙のヒッチハイカーにとってタオルを持っていることがとても重要であること、そして地球が『ほとんど無害』であることを学んだのだった。寝転がりながら銀河ヒッチハイク・ガイドを読んでいると一枚の栞が俺の顔の上に落ちてきた。
『午後8時に光陽園駅前公園にて待つ』と書かれたそれを見て、俺は急いで自転車を駆って、公園へ向かうのだった。
俺が息を切らせて公園へたどり着くと、そこにはこの辺りの空一帯を覆い尽くすような空飛ぶ円盤が浮かんでおり、その真下のベンチに長門が座って待っていた。
「ひょっとして、毎日待ってたとか」
俺が尋ねると長門は肯定した。
どうやら最近新聞やテレビのニュースを空飛ぶ円盤の話題が埋め尽くし、先週の日曜に特番で潰れたアニメ番組を見ることのできなかった妹が「プリキュアがやってない」と俺に八つ当たりのボディプレスを仕掛けてきたのも長門が原因のようだった。
長門は自分のUFOに俺を招き入れると、俺を拘束して手術台に乗せ、脳に特殊な金属性のチップを埋め込むことで自分が『情報統合思念体』と呼ばれる宇宙に存在する知性の、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスであること、そしてハルヒが願望実現能力というとんでもない力を持っているということを知ったのだった。長門は最後に念押しするかのように「信じて」と言ったのだが、長門が宇宙人であることは、チップを埋め込まれる前から分かりきったことであった。
ハルヒが不思議探索に行くというので、俺たちは駅前に集まることとなった。うっかり遅刻した俺は、ハルヒの「遅れたら死刑だからね!」と言う言葉通りに最高裁判所で死罪を言い渡され、東京拘置所に連行されるところだったのだが、ハルヒが「ファミレスで奢れば許す」と言ったので無罪放免となった。俺たちはくじ引きでチーム分けをし、ハルヒと長門、俺と朝比奈さんというチーム分けが決まった。ハルヒの「マジデートじゃないのよ、遊んでたら殺すからね」の言葉と同時に俺は死んでしまい、ハルヒが「あっ、やっちゃったわ!」と言うと俺は生き返ったのだった。
朝比奈さんはホバーボードという、原理はわからないが空に浮くスケートボードのようなもので俺の横をふわふわと移動していたのだが、話があるというのでベンチに座って朝比奈さんの話を聞くことになった。
朝比奈さんは
「信じてもらえないかもしれませんが、私はこの時代の人間じゃありません。もっと未来から来ました」
と言ったので
「なんとなくそんな気はしてました」
と答えると、
「えっ…!?」
と随分驚いた様子を見せた。
その後、現代の世界が未来と比べてどれほど遅れているのか、という話と、時間というものはアナログな概念ではなくパラパラ漫画のようなものである、というような話を聞き、3年前にハルヒが起こした時空震により三年前より過去に行けず、原因であるハルヒを監視しにやって来たのであるという。ついでに朝比奈さんは、原因はわからないがここ数ヶ月の間に。未来ではタイムパラドックスで消えてしまった人がかなりの数に登り、その原因も涼宮さんなのではないか、というようなことを言っていたが、朝比奈さんが部室前の廊下でデロリアンを加速させる際に、コンピ研の部員を5、6人轢いているのを見ていたので、それの原因は朝比奈さんの不注意なのではないか、と俺は疑いの目を向けてしまうのだった。

ある日俺の下駄箱に、ラブレターらしきものが入っているのを見つけ、読んでみると放課後1年5組の教室で待つ、と書かれていた。おれは色々あって遅刻してしまい、ハルヒの『遅刻したら死刑』の言葉通り、教室で待っていた朝倉が「遅いよ」と一言言った瞬間に死んでしまった。
しばらくして俺は、朝倉と遅れてやって来た長門に蘇生されたが、朝倉も宇宙人であるということ、朝倉の所属する急進派の宇宙人は俺を殺してハルヒの変化を観察する予定だったが、そんなに頻繁に死んでるようじゃ殺しても意味がないので計画を練り直してくる、という旨を俺に伝えた。俺は自転車のカゴに朝倉を乗せると、満月の夜空を自在に飛んだ。朝倉の指し示す方角の森の中に降り、そこに迎えに来ていたUFOで朝倉は去っていったのだった。
なんとなく長門に眼鏡はない方がいい、という話をしたら、長門は眼鏡を外した、宇宙服の分厚いバイザーの下の長門の顔は、よく見えなかった。
翌日朝倉はM-78星雲に転校したことになっており、急に転校するなんて不思議だ、とハルヒが騒ぎ出し、俺たちは放課後に朝倉の転校について調査をすることになった。もっと他にいくらでも不思議なことはあるだろうに。
部室に行くとそこには大人の朝比奈さんが居て、『マトリックス・リローデッド』というキーワードを俺に伝えて来たので、「朝比奈さん、今、歳いくつ?」と聞いたのだった。
転校した朝倉のことを調べた帰り道ハルヒが野球の話をしていたが、俺は野球がわからないので「俺、もう帰っていいか?」と聞くとなんか怒ってハルヒは帰ってしまったので、俺も帰った。
自宅に戻ると、門の前で古泉が俺を待っていた。タクシーで拉致され、人間原理だとか、世界五分前仮説だとか、小難しい話を聞かされた上に、手を繋いで閉鎖空間と呼ばれる場所に連れていかれ、自分は超能力者である。という旨を伝えられた。
「なんとなくそうなんじゃないかと思ってたぞ」
と答えると古泉は随分驚いた様子で、
「あなたもエスパーなんですか!?」
と言ったのだがその後読心術を用いて俺の心を読み、平静を取り戻したようだった。
閉鎖空間というのは涼宮がイライラすると神人という巨人を作り出し、暴れさせてストレス発散を行う、という歪んだ破壊衝動が顕現したような空間であるらしい。
古泉は自分の所属する機関の仲間であるというしわしわの老人のような子供達と一緒に薬品のカプセルのようなものを飲み込み、サイコキネシスによって神人を次々と押しつぶしていくのだった。

どう見ても宇宙人に作られた人造人間、どう見ても時をかける少女、どう見ても少年エスパー戦隊。三者三様の理由で、3人は涼宮ハルヒを中心に活動しているようだか、なぜ、俺にそんなことをわざわざ告げたのだろうか。
俺は谷口に相談したりなんかしてたら放課後になったので、部室に行った。メイド服の朝比奈さんがデロリアンで部室に突っ込んできて、フロントガラスを突き破り、俺に覆いかぶさったところをハルヒに見られてしまい、その日俺はなぜか6回ほど死ぬことになった。
三途の川を渡った先で俺はなぜか暗い部室にいた。
ハルヒもいた。
どうやらここは閉鎖空間で、神人を見つけたハルヒは喜び勇んで校庭に飛び出した。
その間に俺は古泉が機械と肉が混合した塊と化すところを見て、部室のパソコンで長門に『マトリックス・リローデッド』と伝えられた。確かマトリックス・リローデッドのオチはこんな感じだったな、と思い、俺は神人を見て大興奮のハルヒの胸に飛び込んで中に入り込むとハルヒを内側から破壊したのだった。
結論から言うと、どうやら俺は無印とリローデッドを勘違いしていたらしい。

翌日学校に行くと、朝比奈さんに泣かれたり、古泉に労われたり、長門に感謝したりと色々大変だった。しかし、今日も空を覆う宇宙船にアメリカ合衆国が核を使った攻撃を繰り返し、朝比奈さんがうっかり起こしたタイムパラドックスで地球の人口が3分の1に減り、神人が通学路沿いのビルをパンチで破壊している。古泉は巨大な肉の塊となってビームを射出する衛星兵器と戦い、朝比奈さんは未来のスポーツ年鑑で荒稼ぎして『朝比奈みくるの娯楽天国』なる悪趣味な建物を建設し、長門はいつも通り牛をキャトルミューティレーションしている。こうして俺たちの日常は、何も変わることなく続いて行くのだった。

「長門有希の憂鬱」完