「私はここにいる」とハルヒが学校の校庭にメッセージを発して、何事もなく三年が過ぎ、奴は何も変わることもなく高校に入学したかのように思われるかもしれないが、少なくとも、機関、未来人、情報統合思念体はその存在に気づいたわけである。無論、他の存在が寄ってきていたとしてもおかしくない、むしろ大量の超能力者、未来人、宇宙人のトーナメント式のデスマッチの末に厳選されたのがあの三勢力と考えた方が、幾分も自然だ。異世界人なんかは、ひょっとしたらそのトーナメント中に不慮の事故で全滅してしまったのかもしれない。未だに異世界人が出てきていないのにも納得のものがある。ドラえもんやマーティーとしのぎを削る朝比奈さんや、エイリアンやプレデターと格闘する長門、肉の塊と化した鉄雄やギガロマニアックスをかいくぐり、超電磁砲をバットで打ち返すなどの八面六臂の大活躍をする古泉など、実際見てみたいものである。と言うよりも、俺やハルヒが気づいてないだけで、裏では有象無象の宇宙人や未来人や超能力者が、長門たちによってバッタバッタとなぎ倒されているのかもしれない。実際佐々木を取り巻く奴らはそう言う性質の奴らだったし、そう言う奴らが俺の知らないところにいるとしても、何ら不思議はないわけだ。
そんなことを考えてながら、一人部室でぼんやりしていると、赤紫色の液体にまみれた長門が部室にやってきた。どうしたんだ、長門。
「蒲田で巨大恐竜と格闘してきた」
そうか、タオル、確か朝比奈さんのロッカーにあったから、これ使って拭いておけよ。
「恩にきる」
長門が恩にきるとは、やはり長門も人間的な感情を手に入れてきた、と言うことなのだろうか。長門の髪の毛をワシャワシャと拭いてやっていると、窓ガラスを突き破ってボロボロの古泉が部室に飛び込んできた。
「いやぁすいません、まさか10倍界王拳まで使えたとは、予想外でした。もう一度行ってきます。」
そう言うと古泉は俺の返事も待たず、窓から飛び出して行ってしまった。せめて窓ガラスを片付けてから行け!
まったく、とブツブツ言いながら、ほうきを取り出して飛び散ったガラスをまとめていると、今度は複数の朝比奈さんがぞろぞろと部室にやってきた。
「実は明日の宿題が終わりそうにないので、数時間おきの未来の私に協力してもらうんです」
と言っていたが、よく考えたら明日の朝比奈さんを連れて来れば問題の答えはわかるのではなかろうか、と言う話は野暮なので言わなかった。そもそもこんな行動に出ている時点で、明日宿題が終わっていると言う保証はない訳だしな。
「あーあ、つまんない、どこかに不思議が落っこちてないかしら」
珍しくハルヒが普通にドアを開けてやってきた。ハルヒが部室に登場するたびにタックルで粉砕するドアの修理費を真面目に計算した結果、ハルヒが一切ドアを粉砕していなければサターンロケットの開発費を賄えたという長門が出した試算を見て、少しは反省したようである。
「ねえキョン、どっかに不思議、落ちてないかしら」
そんなことを言われても、長門が未確認生命体の返り血を浴びて部室にやってくることもしょっちゅうだし、古泉がサイヤ人と格闘しているなんてのも、ありふれた当たり前の風景であるし、朝比奈さんが軽率に異時間同位体を連れてきて増えるのも、ハルヒには朝比奈さんは実は42つ子の大家族である、と言う説明でごまかしてしまったので、不思議でもなんでもない。
俺は困ったように長門を見ると、長門は長門で現在エイリアンとの取っ組み合いの大激闘を繰り広げているので、助けを求めようもない。長門、エイリアンの腕を引きちぎるのは外でやりなさい、返り血がこっちにも飛んでくるから。
「はー、結局、世の中には不思議なんてものは一個もないのよね、もうSOS団やめちゃおっかな…」
ハルヒがそう言うと、団員3名が異様な焦りを見せ、長門は即座にエイリアンをかけらも残らないほどズタズタに引き裂いて始末し、窓際の椅子に座ってゲームボーイを始めた。
「あ!有希がゲームボーイしてる!不思議だわ!」
古泉は5億倍界王拳からのデコピンでサイヤ人を弾き飛ばし、部室に戻るとオセロの盤をひたいに乗せながら、逆立ちをしてスクワットを始めた。
「え?古泉くん!?それ物理的にどうなってるの!?不思議だわ!!!!」
朝比奈さんは異時間同位体を全員未来に帰すと、ガチャピンの着ぐるみを着てスキーを始めた。
「え!?ガチャピン!?キョン!ガチャピンがいるわ!!!!!!不思議!!!!!!」
そんなハルヒを見て、俺はつくづく思った。
「ハルヒ、俺はやっぱり、SOS団をやっててよかったと思うよ。もう、SOS団を辞めるなんて言わないでくれよ、お前あってのSOS団なんだからな」
よし、かっこよく決まったじゃないか、このかっこよさにはハルヒも、朝比奈さんも一発でノックアウトされるに違いない。
「え?キョンが変なこと言ってる!!!不思議だわ!!!!」
やれやれだ。
「グッドナイト・スイート長門有希」完