2017年5月28日日曜日

ここが長門有希なら、きみは長門有希

俺は目がさめるとパリの凱旋門の前にいた。
状況が把握できないので、どういうことかわからなかったのだが、とりあえずハルヒのせいということにした。この世に起こる全ての厄災は、全てハルヒが望んだから起きるのであって、誰かに非があるわけではないのだ。先日、地球の8割が熱帯になって南極の氷が全て溶けて地上の4割が海に沈んだのも、ハルヒが冬の寒さに怒りを爆発させたからであるので、この仮説はかなりの信憑性が持てるように思える。

長門の宇宙人パワーで日本に帰ってくると、先日の南極融解によって、俺たちの住んでいる地域は全て海に沈んでしまっていたので、仕方なく俺は長門家に居候することにした。朝比奈さんと古泉も長門の家に居候する形になっている。機関では今回の南極融解事件を、未来人、超能力者陣営を抱え込むためにハルヒの力に見せかけた情報統合思念体の策略である、とする見方が大勢を占めているようであるが、それはいささかハルヒを贔屓した見方のように思う。今までだって「もっと近くで星が見てみたい」と言って隕石を呼び寄せてアメリカを消滅させたり、他にも「深海の世界って神秘的で素敵よね」と言った翌日にアフリカ大陸が全て地盤沈下を起こして深海に沈んだりしているので、それはいささか考えすぎというものだろう。
ハルヒは人間の命は尊重するかもしれないが、それは直接的に他人の死を願ったりしない、というだけで、副次的には人がたくさん死んでいるのだ。5億キロメートルの巨人が存在したとしたら、ちょっと疲れたから座ろうかな、と思って座った尻の下で、何千万人もの人間を押しつぶして殺してしまうということもあるだろう。ハルヒによる被害は、つまるところそういうものなのだ。
その間にも、ハルヒの願望によって蚊が絶滅させられ、生態系がめちゃくちゃになって鳥が死滅したり、とっとこハム太郎をみてハムスターにハマったハルヒが街をハムスターで溢れさせ、伝染病の媒介者となったハムスターによって日本の人口が1割まで減ったり、KGBから状況を知ったソ連がハルヒの家に向かって7万発の核ミサイルを打ち込んだり、カニの禁漁期間がなくなったり、ウニが三倍トゲトゲになったりしたのだった。
しかし朝比奈さんが
「いえ、これも規定事項ですから、そんなに心配することないですよ」
と言ったので、俺たちは安堵のため息を漏らすのだった。

「ここが長門有希なら、きみは長門有希」完